Tommyの乱読のススメ

ノンジャンル読書と雑記の混沌としたブログです。

「働き方改革」の嘘 誰が得をして、誰が苦しむのか/久原穏

 

「働き方改革」の嘘 誰が得をして、誰が苦しむのか (集英社新書)

「働き方改革」の嘘 誰が得をして、誰が苦しむのか (集英社新書)

 

たまには新書を読んで知識を深めようと思い、本書をチョイス。

労働法を勉強したこともあれば、長時間労働で痛い目を見たこともある自分にとっては、この「働き方」というテーマは結構重いです。

昨今の言説に思うところもあるので、本書でその観点を掘り下げられればなぁと期待して読書。

 

 

 

働き方改革の実相

著者によれば、政府が掲げる「働き方改革」の本質や方向性は見当はずれだと言います。

一定収入以上の人を労働規制の対象から外す「高度プロフェッショナル制度」の導入や雇用の枠組みをフレキシブルに運用する「ジョブ型正社員」 の推進など、こうした制度導入の裏側に思惑があると警鐘を鳴らしています。

まずは一部の人で前例を作り、その後、その適用範囲を広げて一般化する、このことを「アリの一穴」と表現し、政府の訴えを鵜呑みにせず、自分で見極めることの重要性を説いています。

「高プロ」は定額働かせ放題、「ジョブ型正社員」は解雇を容易にするなどの側面があり、「自由度の高い労働」という美辞麗句によって、そうした点が見えにくくなっています。

こうした働き方改革は働き手のためでなく、使用者のためという側面が強く出ている、これが本書を通じて筆者が提起する問題意識です。

 

労働構造の問題

長時間労働

長時間労働はいくつかの構造的要因から不可避のものとなっています。

人員配置が長時間労働を前提にしている、長時間労働が人事考課や会社貢献の要因になっている、残業代が家計に組み込まれている、といった点が挙げられます。

そういった構造的な要因があるにもかかわらず、政策は働き方などに集約、つまり、労働者に責任が転嫁されがちにあります。

 

日本型雇用

よく日本型雇用は今となっては年功序列や終身雇用が時代遅れで足かせとなっているという論説を聞きますが、だから雇用制度を変えようという発想は短絡的であると述べられています。

そもそもこうした制度は非効率※と思われがちですが、長い歴史の中で労使共に築き上げたもので、双方に利のある絶妙なバランスのものであるという側面を評価すべきと説きます。守るべき制度は守るべきであり、全てを非効率と断じてしまうのは危険というのが筆者の主張です。

「働き方改革」が推奨する、「多様で柔軟な働き方」は、旧来の日本的雇用が既得権益化したものであるとの印象操作にも繋がると筆者は警鐘を鳴らしています。

※日本の労働生産性は低く、よく非効率と言われますが、本書ではこの指標自体労働制度の違いや慣習を考慮していない、信頼できない指標と評されています。

 

今後の働き方

よく話題になるAIの脅威。これは雇用制度を揺るがすものなのでしょうか?

前のレビューでも書きましたがホワイトカラーの仕事が半減すると言われていました。

ただ、この話には続きがあって、2017年にマッキンゼーが発表した内容によると、「自動化の波は緩やかであり、AIに置き換わる仕事は5%にとどまる」とのことでした。

どちらの意見を取るかは人それぞれと思いますが、私は『AI vs 教科書が読めない子どもたち』を読んだ経験から、後者寄りの立場かなぁと思っております。

 

tommy-june.hatenadiary.com

 

 

AI vs. 教科書が読めない子どもたち

AI vs. 教科書が読めない子どもたち

 

 

また、副業の推進やギグエコノミー(個人請負型)・クラウドソーシング・プロジェクト単位での雇用の推進など、未来の働き方は雇用の流動化に進むかもしれません。

その先に待つのはユートピアかディストピアか。 

この先の働き方を考えるにあたり、誰のための「働き方改革」かという観点で見極めることが重要になります。

本来は働きすぎの防止など労働者保護を目的とすべき「働き方改革」。ただ、中には規制を逆に緩めて労働者を危うくするものもあるかもしれません。

経営者のために偏っていないか、労働者のためになっているか。無批判に受け止めるのではなくそうした心持ちが必要なのでしょう。

人の幸せ(愛されること、褒められること、必要とされること、役に立つこと)のうち、大部分(愛されること以外)は働くことで得られるもの。そのため、雇用の安定が何よりも重要なのであるという言葉で本書は締めくくられています。

 

 

サクッと読める本でしたが、中々に面白い内容でした。

政府の訴え=陰謀という構図を全面に押しているので、「そこまで言わなくても」という印象を受けますが、私と意見が合う部分が多かったです。

「働き方改革」がイマイチ響いてこないのは、現場に立脚していないから。プレミアムフライデーなどはいい例です。なんとなく絵に描いた餅みたいな胡散臭さを感じていたのですが、本書でその辺の違和感が肉付けされたように感じました。

「働き方」の中で問題が深刻化している長時間労働ですが、私個人としては、「仕事の量が多すぎる」に尽きると思います。

内向きでは社内根回し、外向きでは相手先への心遣い・多様な価値観への対応など、仕事は増える一方ですが、収入・評価は変わりません。

「働き方」を変えるには、「捨てる」と開き直ることが肝要と思います。ただ、日本人の発想ではそれが難しい、二兎を追ってしまうのが性なんですよね。

今後、日本人的な価値観を如何に変えていけるか、これが「働き方改革」の特効薬だと思います。