Tommyの乱読のススメ

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蠅の王/ウィリアム・ゴールディング

 

蠅の王〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

蠅の王〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

 

たまには小説が読みたくなったので本作を。

ノーベル賞作家ゴールディングの代表作です。

巷ではダークな十五少年漂流記と呼ばれていますが、日本人からすると、漂流教室なんかの方がイメージしやすいかもしれませんね(ちょっとテイストが異なるところも多いですが)。

本作は既に色々と考察されていると思いますが、私の印象に残ったところを記録として残していきます。

ネタバレありです。

 

 

 

 

 あらすじ

 疎開する少年たちを乗せた飛行機が、南太平洋の無人島に不時着した。生き残った少年たちは、リーダーを選び、助けを待つことに決める。大人のいない島での暮らしは、当初は気ままで楽しく感じられた。しかし、なかなか来ない救援やのろしの管理をめぐり、次第に苛立ちが広がっていく。そして暗闇に潜むという“獣”に対する恐怖がつのるなか、ついに彼らは互いに牙をむいた―。ノーベル文学賞作家の代表作が新訳で登場。(本書の紹介文より)

 

なぜ殺し合いが起きたのか?

物語終盤で少年たちは仲違いし、最後は殺し合いに発展します。ではなぜ殺し合いが起きたのか?

これには権威の欠如と満たされない承認欲求にあるのだと思いました。

以下考察します。

 

権威の欠如

まず、権威の欠如についてですが、生き残ったのは少年たちだけで、この島には大人がいません。

そのため、絶対的な統治者がいなかったことが争いの要因挙げられます。

確かにリーダーとしてラルフがいましたが、彼は若干12歳、リーダーシップを発揮しろと言っても酷な年齢です。

子供たちは刹那的に自分の好きなことをしてしまいますし、ジャックという自己顕示欲の塊もおり、彼を抑えることができずに組織は崩壊の一途をたどってしまいます。

ラルフはリーダーになりましたが、実は知識ではピギーに劣りますし、指導力やカリスマ性ではジャックに劣ります。

そんな彼がリーダー任命されたのは、ほら貝を持っていたから。このほら貝は民主主義、もっと言えば理性を象徴したものでした。

実際、ラルフの言うことは生還を最優先にした比較的「まとも」なものだったのですが、そういった正論も極限状況では場のコントロールを保ち得なかったのです。

少年であるラルフでは超越的な統制を取ることもできず、ラストで大人たちが来るまでアナーキー状態に陥ることとなりました。

 

ただ、ここでさらに述べたいのは、大人がいる世界が本当に統制の取れた世界なのか?という点です。

あまり語られていませんが、本作の時代は戦時中。要は大人たちが戦争をしている世界なのです。

そのため、ラストで少年たちは救出されますが、戻る世界も戦争の無秩序状態。

つまり、戻った先も地獄、「楽園はどこにもない」ということを暗に示しています。

島に上陸した大人の「白い制服」・「拳銃」は「野蛮人のような格好・「手に持つ槍」との対比になっており、この小説の救いのなさを表現しています。

 

承認欲求の肥大化

先ほど述べたように、ジャックは自己顕示欲の塊のような人物であり、自分ではなくラルフが隊長に推薦されたことが、ジャックの自尊心を傷つけ、なんとか認められようと奮闘します。

特に彼は豚を狩ることに執着しますが、この島には食料となる果実が潤沢にあるため、食料事情に躍起になる必要はないのです。

この行動の動機は、自分の力を顕示することでしょう。

まぁ確かにタンパク源としては豚肉は最適な食料だったと思うのですが、魚取る方が簡単な気がしますしね、、、。

ともかく、歪んだ彼の承認欲求は、ラルフと対立するにとどまらず、彼を傷つける方向で走ってしまいます。

 

蝿の王とは?

最後に本書のタイトルは何を暗示しているのかについてです。

作中で、「獣」に対する供物として豚の頭が捧げますが、これが人の悪意の象徴である蝿の王です。

作中、この蝿の王に向き合う人物は3人。ラルフ、ジャック、サイモンの3人で、ラルフは、向き合おうとせず、ジャックは闇に身を委ねます。

サイモンは向き合うことで、悪意の正体を見出しますが、殺されてしまいます。

サイモンの死の瞬間こそ、少年たちが悪意から解放される機会を失った悲劇的な時と言えます。事実、これ以降物語は急転直下していきます。

 

 

まだまだ語りたいことはあるのですが、最後に。

こういったクローズドサークルでの人間関係を描いた作品は、現代社会に通じところが多いかと思います。

現代はグローバル社会と言われますが、実際は「グローカル」の積み重ねが多く、現代人は複数の小規模なコミュニティに属さざるを得ない状況にあると思います。

そういった小さなコミュニティの中では、権威や承認を巡る争いが多々あるはずです。

本作はそんな現代人にとって示唆を与えてくれるかもしれません。