以前書いた『さよなら妖精』のレビューが思いのほか、参照されているので続編に手を出そうと考えました。
『王とサーカス』とどちらにするか迷いましたが、こちらの方が発表が古い短編も含まれていることと、短編集であることからライトに読めそうということで、本書を選ぶに至りました。
謎(トリック、伏線、独自性) ★3
本作は「ミステリー」というよりも「サスペンス」と分類すべきかなと思います。
両者の区分けは諸説ありますが、私個人の中では「ミステリー」は謎解きを核にした物語、「サスペンス」は展開で読ませる物語と勝手ながら位置付けしています。
ということで、謎はさほどないのですが、話を読ませるエッセンスとして機能しているのでこの評価に。
人物描写(キャラクターの魅力、共感)★4
前回、太刀洗万智の人物描写が甘いなぁと書きましたが、本作では彼女について別人物の視点から掘り下げていくような描写が見えました。彼女を主体とせずに描いたのが逆に味があっていいと思いました。前回の不満を挽回してくれたので、★4で。
(ただ、表題作である「真実の10メートル手前」は太刀洗万智の視点で描かれています。そのため、私はこの短編は他の五編とは位置付けを異にしていると評しています)
文章表現力★3
米澤穂信は長編よりも短編を書かせた方が上手いなぁと感じます。長い文章はダレますが、短い文章だとスッキリと読ませるように思います。
『満願』が評されていることからも、世間的な評価もそうなのかなと思います。
プロット (ストーリーライン)★3
設定はいいと思います。ただ、作品の出来に差があるように感じるため、★3に。
各作品について評すると以下のとおりです(ネタバレあり)。
「真実の10メートル手前」
他の短編と性質を異にする物語。展開的には平凡と思います。
「正義漢」
太刀洗万智の観察力と行動力が表れた作品。短いながらエッセンスが凝縮されている良作。前半と後半で見方がガラッと変わります。
「恋累心中」
本作最長の作品。ショッキングな心中事件に潜む企みを明らかにする展開。黒幕の進言が引き金となるわけですが、こんな重大な決断を言われたことをはいそれと鵜呑みにしてやるかなぁという印象。今はネット社会だし、インターネットで裏付けをすることくらいはやるのでは?ちょっと妄信的では?という印象でした。
「名を刻む死」
個人的には本書ベスト。謎はほとんどないですが、人間性を浮き彫りにしていく展開と、ラストの太刀洗万智が彼女らしくなく人を断ずる場面が印象的。
「ナイフを失われた思い出の中に」
どうしても容疑者の一貫性のない行動の根拠が腑に落ちず。あんな思惑を込めた告白文を書ける人間にしては、やり方がお粗末ではないかなぁと。ただ、この作品は『さよなら妖精』とのリンクを楽しむものでしょう。
「綱渡りの成功例」
個人的には本書では一番いただけないと感じた作品。コンフレークの食べ方が鍵となりましたが、牛乳をどうしてもかけなければならないと強迫観念に囚われてしまっているのが疑問。いくらコーンフレークを知らないと言っても、牛乳なしで食べようと考えませんかね?
これで本シリーズは残すところ『王とサーカス』。
米澤穂信の長編はちょっと合わないかも、と言いましたが、最終的な評価はこの作品を読んでからかなぁと思いました。