Tommyの乱読のススメ

ノンジャンル読書と雑記の混沌としたブログです。

政治の哲学/橋爪大三郎

 

政治哲学について、以前理解が不十分だったので、やや敷居を落としたこの本を。

本書は生活に密接な政治機能やテーマについて具体的に切り込んだもの。

おそらく哲学の導入書としては入り込みやすいのではないかなぁと期待。

 

 

 

政治とは?

本書では以下のように定義されています。

人びとを拘束するようなことがらを、決めること

これにより、人びとの幸福の質が決まるとも論じられています。

本書では、政治においてどういう価値観や哲学があって様々な立場に分かれているのかということを理解することが、政治をつかむ上で肝要とされています。

 

政府の機能について

政府は昔は夜警国家でしたが、現代では公共財や社会インフラといった公共財を提供したり、市場の自律性をはみ出した「市場の失敗」に介入する機能が求められています。

政府は生み出される格差を是正するために、機会の平等/結果の平等を提供します。

機会の平等:人は皆与えられるチャンスは同じであるべきとする考え。結果には不介入

結果の平等:結果的に生じる不平等は是正されるべきとする考え。セーフティネットや富の再配分がこの考えを体現する政策。

政府に介入についてはリベラリズムや極端にはリバタリアニズムがありますが、それは以下の記事に譲ります。

 

tommy-june.hatenadiary.com

 

政府の活動根拠

政府は政治を行う権限を持っていますが、これは何を根拠にしたものでしょう?

ホッブズがリヴァイアサンで唱えた社会契約説がルーツになっています。

内容を簡単にまとめれば、

各々は自然権(幸福追求権)を有するが、その結果、各々が好き勝手に行動するカオスな状況(「万人の万人に対する戦争」が起きる自然状態)になってしまいます。

そのため、各々が自然権の一部を断念して人造権力(リヴァイアサン)を据えて、その秩序の下にやっていこうと決めたました、ということです。

ここでポイントとなるのは人間は本来自由であるということと、その人間が権利の一部を断念するという契約の下に政府権力が生まれているということです。

そして、その政府権力の行使について定めたものが憲法です。

他の法律が人民に対してのものであるのに対し、憲法は政府に対するものですし、その本質は文面でなく精神にあるということに特異性があります。

(なお、イスラム教ではアラーを絶対とする考えから契約によって政府を樹立するという考え方がなく、イスラム圏では近代化や民主主義が根付かない土壌にあります)

 

社会の変化に対する考え方

従来、社会の単位として、家族が想定されていました。現在の法律は家族があるというあり方を念頭に置いていますが、昨今、社会通念や常識が変わってきてしまっている中、果たしてそのままの考えで時代に沿っているのでしょうか。

晩婚化や別居婚、性的マイノリティの存在など、単位としての家族のあり方は従来の枠組みでは捉えられないようになってきています。

また、少子化を悪とする見方も押し付けではないか?という考えもあります。結婚して子どもを持つというあり方を是とし、「結婚をしない」という選択の自由を奪っていないか?ということも問題視されます。

人口が減るということが本当に悪なのか?先入観抜きに多様な価値観から考えてみる必要があるかもしれません。

 

(面白かったので)大学に無償化は愚策か?

橋爪先生のご意見が面白かったので、紹介までに。

先生は大学の無償化は問題の解決にならないと切り捨てます。

その理由として、学費を無償化しても下宿費などのコストや、「得べかりし所得」(教育を受けずに働いていた場合に取得していただろう収入)をカバーできないという点や、結局教育の質も向上しないという側面を挙げています。

そうではなく、基本の学費は高く、ただ奨学金の制度を充実させ、成績に応じて奨学金を出すとすることで、学ぶことへのインセンティブを創り出せと言います。

結局政治にできることは、①補助金を出す、②税金を取る、③法令で規制するの3つのみなのだから、この武器をどう使うかに特化して政策を考えよと説いています。

 

安全保障や医療などの個別分野にも切り込んでいますが、それは割愛します。興味のある方は本書を手にとってみてください。

政治がどんな大前提で動いているのか。また、その課題は?といった点に突っ込んだ内容かと思います。

政府は国民との契約に基づいて権力を行使しますが、逆に言えば、その契約で定められたこと以外は認められていないという解釈になります。

この前提に立てば、目の前のニュースで話題となる出来事が本当にそれに沿ったものなのかと「疑う目」が育つと思います。

日本では政治の議論が盛り上がりませんが、やはり「諦め」の念がその要因ではないかと思います。ただ、自分が持っている権利を理解することは、一歩を踏み出すきっかけになるのではないかと思います。誰でも持っているものを侵害されたとき、リベンジに燃えると思いますので…。

 

明日は資格の勉強に時間を割きたいと思うので、読書はライトなミステリーでいきます!(初の次回予告)