Tommyの乱読のススメ

ノンジャンル読書と雑記の混沌としたブログです。

【日本的経営の腐り方と治し方】組織戦略の考え方/沼上幹

こんばんは~。

 

今夜はM1グランプリでしたね。

優勝した『霜降り明星』のお二人、おめでとうございます。

正直、今回は出場者の多くが技巧や奇をてらった演出にこだわりすぎた感じがしました。

私個人として見たかったのは、そういう上手さよりも、熱意や単純な面白さであり、

決勝の3組の中では最も技で劣るものの、エネルギーが最も高かった

霜降り明星が優勝を勝ち取ったのは、ある意味皮肉というか、納得できる結果でした。

ただ、個人的にはミキが王道で一番面白かったと思うんだけどなぁ…来年頑張って。

 

さて、今日はこの本です。

前々から読みたいなぁと思っていた一冊です。

15年前の著作なのですが、

最近のビジネス本と比べて見えてくるものもあるだろう、そう思い手に取りました。

 

組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために (ちくま新書)

組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために (ちくま新書)

 

 

この本の問題意識は、

「日本組織の本質的な部分(コア人材の長期雇用)を維持しながら、

 駄目にならずに経営していくにはどうすればよいか?」

から始まります。

 

 

まとめると…

  • 組織経営は創造性より基礎固め。実務を遺漏なくこなせる官僚的な仕組みが必要
  • 自己実現欲求だけでは不十分。承認・尊厳欲求が満たされることが大前提
  • 組織腐敗からの脱却策は「簡単で透明性の高い組織にせよ」

 

 

必要なのは官僚組織?

しっかりした組織には、実務を遺漏なくこなせる官僚的な仕組みが必要です。

これは事業を維持するために必要なルーチンを処理する現場を土台に、

例外業務の処理をするミドル、長期戦略や意思決定をするトップで構成される組織を指します。

ただし、完全に独立分業しては、

各構成員が別階層の仕事を知り、階層を変えるべく成長するチャンスがありません。

人材育成の観点では、各階層の中にほんの少しだけ別の階層の仕事を混ぜる

一見不格好な組織を形成する必要があります。

 

自己実現だけすればいいわけではない

マズローの欲求階層節は以下によって形成されています。

  1. 生理的欲求:生存本能に沿った欲求
  2. 安全・安定性欲求:予測不可能な混沌とした事態から逃れたいという欲求
  3. 所属・愛情欲求:集団に属し、友情や愛情を求める欲求
  4. 承認・尊厳欲求:他人から承認・尊敬されたいという欲求
  5. 自己実現欲求:自己の成長・潜在能力の実現を求める欲求

現代は自己実現欲求に重きを置かれていると言われていますが、この説明では片手落ちで、

自己実現欲求は承認・尊厳欲求が満たされて初めて目を向けられるべき欲求です。

よって、自分の成長できる場を提供するだけでは不十分で、存在を認めた上で、

褒めたり感謝したりしてその欲求を満たす必要があります。

 

意思決定は確固たる意志に基づくべき

バランス感覚がある人は、周りをおもんばかってコンセンサスをとる決断をしがちで、

その結果、それは誰でもできる意思決定になってしまいます。

そうではなく経営者は、

意思決定は、コンセンサスになびかず、時には冷酷非情な決断となるべきと認識する必要があります。

 (この本の論理の限界に近い議論です)

tommy-june.hatenadiary.com

 

組織の腐敗に立ち向かうには

複雑化した組織の中では、手続きが複雑化し、時流や本質をつかみ損ねたり、

その組織の複雑性を利用し、組織間の仲介役をすることで

権力者に近づき、権力を手にする非生産的な人間(キツネ)が現れます。

こうした組織腐敗からの脱却策は以下の3つになります。

  1. 複雑怪奇化したルールや手続きの全面的破壊
  2. 成熟事業部からの優秀な若手の引き抜きおよび新規事業・外向きの仕事への配置
  3. 繁閑のメリハリをはっきりつける

 ※3.については暇にするのは、優秀な人材にすべきで、

  彼らにその時間を使って創造的な仕事をさせるべきと説いています。

 

感想

今見ても、結構参考になります。

最初の方で官僚組織が重要だ!という主張が続くので、

そこで読むのをやめてしまう方もいるかと思いますが、我慢強く読むと納得感はあります。

要は、ルーチンはビジネス基盤なので最も固めておくべきもの。

それはそれで専念し、ミドル層・トップ層がイレギュラー対応せよということ。

超簡単に言えば、「各人片手間にやるな」ということでしょう。

 

一点、表現で気になるのは、「ヒエラルキー」という言葉を使ったことでしょうか?

この言葉を使うと、ルーチンはミドル層・イレギュラー層より「下位」と思わせてしまうこと。

そうではなく、ルーチンも例外業務も長期戦略も、

「役割の違いがあるだけで優劣はない」という意識を醸成する必要があります。

ルーチン担当者にとっては、トップ層が秘密裏に何やらやっているのを見ると、疎外感を感じます。

そういうときに、その業務の重要性を説いて承認・尊厳欲求を満たす配慮が必要です。

 

本書の主張を簡単に言ってしまえば、

「簡単で透明性の高い組織にせよ」という結論に行きつくかなと思っています。

簡単な組織にすることで、無駄な手続きなどを省略し迅速性を向上させます。

また、透明性を高くすることで、暗躍するキツネやフリーライダーを明らかにし駆逐します。

 

本書はは、声が大きい人が勝つ組織や努力なしに甘い汁を吸うフリーライダー問題に切り込んでいます。

私のレビューでは語りませんが、その辺は本書を読んでいただければと思います。

 

今までの紹介した本のレビューの内容からあまり大きく外れていませんし、

むしろもっと深く切り込んでいるテーマもありました(承認・尊厳欲求のところなど)。

そう考えると、本書が書かれた2003年以降、リーマンショックなどの大きな転機はあったものの、

日本のビジネス界のパラダイムはほとんど変わっていないなだなぁと思います。

これはいい意味も悪い意味も両方あって、

日本的企業経営の持ち味が発揮された結果、危機を持ちこたえることができたととることも、

GAFAのような新興企業が誕生しないのは、やはり日本的経営が弊害になっているのか、

双方考えられるからです。

私は日本的経営手法は今は逆風かもしれませんが、

過去の経済成長はこの風土で培われたものと思いますので、

今後を生き延びるために、環境に適応しながらも、本質は失わずに経営を続けられればと望みます。

 

GAFAの記事です。

tommy-june.hatenadiary.com

 

本日はここまでです。

お読みいただきありがとうございました。

ではまた明日~。