Tommyの乱読のススメ

ノンジャンル読書と雑記の混沌としたブログです。

【誘拐事件の裏に潜む陰謀】造花の蜜/連城三紀彦

こんばんは~。

 

今日はこの本。

連城三紀彦の本は、恋愛要素がかなり作中に入り込んでおり、あんまり明るくないので、

片手で数える程度しか読んでいませんでしたが、本作が本屋で平積みにされているのを見て、

「食わず嫌いもよくないな」と思い、手に取りました。

作風は肌に合いませんが、文章力はミステリー界随一だと思う。

 

造花の蜜〈上〉 (ハルキ文庫)

造花の蜜〈上〉 (ハルキ文庫)

 
造花の蜜〈下〉 (ハルキ文庫)

造花の蜜〈下〉 (ハルキ文庫)

 

 

 

まとめると…

  • 破天荒な誘拐事件に渦巻く、深淵なる目論見
  • めまぐるしく入れ替わる目線・巧みな文章力から繰り出される複雑な事件構造
  • 結末はモヤモヤ

 

 

あらすじ

造花の蜜はどんな妖しい香りを放つのだろうか…その二月末日に発生した誘拐事件で、香奈子が一番大きな恐怖に駆られたのは、それより数十分前、八王子に向かう車の中で事件を察知した瞬間でもなければ、二時間後犯人からの最初の連絡を家の電話で受けとった時でもなく、幼稚園の玄関前で担任の高橋がこう言いだした瞬間だった。高橋は開き直ったような落ち着いた声で、「だって、私、お母さんに…あなたにちゃんと圭太クン渡したじゃないですか」。それは、この誘拐事件のほんの序幕にすぎなかった―。

https://www.amazon.co.jp/造花の蜜-連城-三紀彦/dp/4758411247

 

謎(トリック、伏線、独自性)

ミステリーというよりもサスペンスよりかなぁ。

核となる謎は『ホワイダニット』

謎のいくつかはヒントこそ与えられるものの、確証なく回収されずに終わるので、

全ての謎をスッキリ伏線回収するような展開を期待する人にはお勧めできません。

逆に、モヤモヤしたなんとも言えない読了感を味わいたい方にはお勧め。

 

人物描写(キャラクターの魅力、共感)

誰が主人公かと言われると非常に難しい。全編通して目線がめまぐるしく変わります。

そのため、特定の誰かの視点からストーリーが展開するわけでなく、群像劇と捉えるのが良いかと。

この本の構造上、どの人物も後ろ暗さを持っているのですが、ほとんどの人物の内情が明らかになりません。

なんかこいつら隠し事ばっかりでモヤモヤする…と感じるため、

やはりスッキリしたい方にはあまりお勧めできない作品かと。

 

文章表現力

どうも映像化されているらしいのですが、残念ながら未視聴です。

ただ、叙述トリックを仕込んでいる最終章までは映像化されていないのでは?と思います。

後ろで述べますが、叙述トリックをはじめ、きわどいバランスの上に成り立っている作品であり、

全編通して、筆者の高い文章力がなければ作りえなかったものと思います。

 

プロット(ストーリーライン)

本作の中核は誘拐事件にありますが、その意外性・見た目のド派手さに惑わされがちですが、

その内実は非常に複雑な構造をとっています。

文庫版の下巻では実行犯が舞台裏を告白する章がありますが、

これも倒叙ミステリ風に描くことで、巧みにその真相を隠しています。

 

以下ネタバレ

表向きの誘拐事件はフェイクで、実は裏でもう一つの誘拐事件が起きていました。

表の誘拐の実行犯かと思っていた川田が、実は裏の誘拐事件の人質だったという構成。

しかもそれを本人には気づかせないという構造。

全知全能でないとこんなの無理じゃね?と思うのですが、

まぁこの主犯格の女(蘭)の素性はほとんど明らかにならず、その辺の底の見えなさが

現実味を帯びさせるのでしょう。

 

タイトルを回収するのであれば、川田は女王蜂の下の働き蜂と思っていましたが、

実際は偽りに満ちた花(造花)である主犯の女(蘭)の蜜に絡めとられた

哀れな蜂であったということでしょうか。

本作では胡蝶蘭が造花のモチーフとして描かれており、

主犯格の女が名乗る名前である「蘭」がそれを暗喩しています。

 

結局、犯人グループしてやったりで終わります。

一部の真相は明らかになりますが、一方で犯人が追及を逃れる結末など、

スッキリしなさが何となく貫井徳郎の慟哭 (創元推理文庫)を彷彿とさせました。

 

 

感想

ほとんどがネタバレ注意で終わってしまいました。

それだけに語るのが難しい作品でした。

一つ言えるのは、「万人受けしない」ということでしょうか。

ミステリーは謎がすべて回収されるのが、ある種のカタルシスなわけですが、

この作品ではそれを期待してはいけません。

そういう後味の悪さというかモヤモヤ感があるので、そこが読む人を選ぶ理由です。

人によっては「こんな結末で読んだ時間を返せ」となるかもしれません。

私は結構好きですが。

 

本日はここまでです。

お読みいただきありがとうございました。

ではではまた~。