ダイエットのためにランニングをしてヘトヘトになりながらも読了。
本当は他に読んでいる本のレビューを書こうかと思いましたが、私の米澤穂信の評価を固めてしまうことの方が先決かなと思ったので、こちらを優先。
真相に迫るネタバレはしていないつもりですが、避けたい方は続きに進まない方が吉かと。
謎(トリック、伏線、独自性) ★3
ミステリーとしての謎は平凡。
俗にいう「フーダニット」と「ホワイダニット」なので、トリックなどを期待するミステリーではないです(サスペンス寄りかなぁ)。ただ、単一人物だけを追っていると全体像が見えないので、意外と一筋縄ではいかないかと。
正直、殺人事件よりも最後に秘められた伏線が一番の見せ所かと思います。ただ、若干読めてしまったのが残念。あの人物が中盤に登場しないので、明らかに暗躍しているのが見えちゃったんだよなぁと。
人物描写(キャラクターの魅力、共感)★4
太刀洗万智の精神が常人離れしすぎているので、感情面では彼女に共感できないのですが、彼女にとってのジャーナリズムとは何か?というテーマを巡って物語の中で逡巡し、結論を見出していくという人間的な成長が描かれているところは印象的。
また、出てくる人物の言葉が結構重い。その点は最後に。
文章表現力★3
他の作品に比べて圧倒的に読みやすいと思います。
ただ、死体の描写などに引きつけるような迫力がなく、少し軽いなぁと思ってしまいました。
プロット (ストーリーライン)★5
私の好物のテーマをふんだんに盛り込んでおり★5で。
ナラヤンヒティ王宮事件とか『ハゲワシと少女』とか。
…というのは不真面目なので、もう少し書くと、まず海外ものですが、エキゾチックな雰囲気を漂わせていることと、ただ単純に舞台を海外にしたというところにとどまらず、その文化的・社会的問題についても踏み込んでいるということがストーリーに厚みを持たせています。
では最後に印象に残った発言をば。
自分に降りかかることのない惨劇は、この上もなく刺激的な娯楽だ。
意表を衝くようなものであれば、なお申し分ない。
恐ろしい映像を見たり、記事を読んだりした者は言うだろう。
考えさせられた、と。そうゆう娯楽なのだ。
それがわかっていたのに、私は既に過ちを犯した。繰り返しはしない。
対岸の火事を表した言葉ですね。現実感のない外国で起こった事件事故に対して抱きがちな感情についての非難ですね。
軍人も密売人になれる。密売人も誇りを持てる。
誇り高い言葉を口にしながら、手はいくらでもそれを裏切れる。
ずっと手を汚してきた男が、譲れない一点では驚くほど清廉になる。
どれも当たり前のことじゃないのか。
あんた、知らなかったのか。
どうぞ心なさい。尊さは脆く、地獄は近い。
人間、潔白さとダーティな部分両方を持ちうる。その二面性、矛盾を持ちながらあるのが人間であるという、善悪の二元論では割り切れない部分があるということがメッセージかと思います。
なお、上記2発言は別の人物のものです。
米澤穂信の作品の中では(私が読んだ中で)本作が一番完成度が高いと思います。
ここまで読んで分かりましたが、この人は設定で読ませるタイプですね。特に今回は筆者と設定に相性が良く、ミステリーの枠外でも作品として考えさせる部分があったかと思います。
シリーズはひとまずこれにて読了ですが、今後、気をひく設定であれば手にとってみようかと思います。
他のシリーズのレビューもどうぞ。