Tommyの乱読のススメ

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タテ社会の人間関係/中根千枝

 

タテ社会の人間関係 (講談社現代新書)

タテ社会の人間関係 (講談社現代新書)

 

どうも新書のレビューが多くなってきた今日この頃。

読みたい本はいっぱいあるのですが、時間をうまく使えず、さらっと読める新書に逃げてます。ただ、明日以降は同時並行しながら読んでいる手応えのある本について書ければと思います。

ただ、本書も中々興味深い内容でした。

 

 

 

本書における日本社会の解明手法

今般、西欧にないような社会現象を、一括して日本の後進性とか封建遺制などと語られてきましたが、西欧社会=先進国で日本はその過渡であると見なすのは、日本独自の文化・社会的特色を無視した見方であると論じています。

サイードのオリエンタリズムをイメージしていただければ分かりやすいかと。

そうした特色を考慮するため、本書では社会人類学的な社会構造の比較研究で「関係性」に着目して分析を進めていきます。

 

日本社会の集団形成

一般に、社会集団の構成要因は、社会的個人の一定属性を表す「資格」、もしくは、資格の相違を問わない一定の枠である「場」の2つとなります。

日本では、「場」が「資格」に優先します。社会人にとっては、会社名が「場」といったところです。

なぜ「場」が優先するのかという点については、歴史的に日本は家社会という居住・経営体という枠を伴った社会であったということが背景と語られています。

こうした「場」を優先した社会では、何事も人間関係が優先され、人間関係は所属の長さ・激しさに比例し、よそ者には排他的となる傾向にあります。

この辺の周辺情報は後に譲ります。

 

「タテ」社会

ここでいう「タテ」とは主従関係といった同資格でも生じる序列を伴った関係を表し、「ヨコ」は同質・同列なものを結ぶ関係を表します。

日本においては、「企業は人」と言われるように、会社と労働者の関係は、契約関係を超えて人と人との関係と同様に見なされる傾向があります。そして、大企業ほど社会集団としての人間関係を維持するために序列の力が強く、年功序列の組織ゆえに従業員間の能力差をほとんど認めず、序列が優先します。

こうした社会では、組織はリーダーを頂点にした末広がりな体制となります、日本の高度成長期のようなトップダウンがうまくいっているときはいいのですが、リーダーと部下の力関係によってあり方が変わってしまうことに問題があります。リーダーと部下の力関係が親密だと、なんでも部下に相談してしまい(温情主義)、何事もスピーディに決めることができなかったり、逆の場合はワンマン化(強権発動)を引き起こします。日本のリーダーの主要任務は和の維持にあるといっていいでしょう。

 

「ヨコ」社会

「タテ」社会は日本特有の構造ですが、組織組織がムラ化するため、どうしてもヨコの繋がりが希薄になります。

筆者は競合会社関係を用い、以下のように問題点を指摘します。

本来、競合他社間は対立の構造にあるものではなく、並立するもので、お互いが連携すべきものなのだが、日本においては対立の色が濃く出て、他社を蹴落とすという行動に移りがちだと言います。

本来は会社ごとに得意分野や注力分野を棲み分けして、効率的に経営資源の分配を図ればいいところ、他社を蹴落とすために、自社でなんでもやろうとする(ワン・セット)ため、非効率な競争や余計なエネルギーを注ぐことになっていると説きます。

一方、諸外国ではヨコにつながる階層的な構造が主流です。こうした組織は同僚意識的であったり、連帯性が強かったりします。

この組織体制を維持するために、組織内で約束(契約)を決め、それに倣って運営を行って行きます。「タテ」社会で述べたリーダーの困難は、「ヨコ」社会では、リーダーと部下との間に約束事を決めておき、お互いに自分の範疇外には立ち入らないことでスムーズな運営を実現しています。

(こういう書き方だと「ヨコ」社会の方が優れていると思われるかもしれませんが、それは意図していません。「タテ」にも良いところはありますし、第一、そういう見方は冒頭の解明方法で述べた分析のスタンスに反します)

 

日本社会の歴史的な背景は以下の記事も参照いただけるといいかもしれません。

和の精神について言及されています。

 

tommy-june.hatenadiary.com

 本書は50年前に執筆された本ですが、今読んでも納得のいく部分は多いのではないでしょうか?

私自身の社会人経験とも照らし合わせながら、「合ってる」と思いつつ読み進めていました。

では、こういった組織の中でどう行きていくか?

本書は社会人類学的分析に焦点を当てていますので、その結論は出していません。

正直、本書で会社生活で使えるなという技術を得ることは少ないと思いますが、

「こうした考えが日本人特有なのだ」という認識を持っておくことは、今後の国際社会を生きる中で、外国人との価値観の相違を事前に可視化することに繋がりますので、カルチャーショックのダメージは少なくなるのかなと思います。